「ボッコちゃん」星新一
📕本書との出会い
僕は五人兄弟の末っ子でゲームや服などはすべて兄のおさがりでした。
本も自分で買うことがあまりなく、最新のマンガや週刊誌は三人の兄たちが調達してくれていました。
姉もいるのですが、姉はあまりマンガは買っていませんでした。
しかし、姉が集めていた小説が新潮文庫の星新一シリーズでした。
短い時間でたくさんの物語りを読めるので当時小学生の僕はのめりこみました。
前置きが長くなりましたね。星新一さんについてはまた次に書くことにします。
さて、 「ボッコちゃん」は50編が収録されたSFショートショート小説です。
星新一先生自らが収録作品の編集に携わっています。
収録作品の「おーい でてこーい」は教科書にも載っていました。
日本の教科書にもアメリカの教科書にもです。すごいですね。
本書には星新一先生の持ち味である発明品や宇宙での話も多数あります。
今回は収録作のひとつで強烈に記憶に残ったものがあるので紹介します(*‘∀‘)
星新一作品ではよく悪魔👿が出てきますが、大抵の悪魔は願いを叶えるかわりに魂をとります。
しかし、下に出てくる悪魔はなにもできませんでした。
📘見どころ
「鏡」
夫は有名企業の課長、妻は声優の夫婦が主役です。
13日の金曜日、夫は悪魔を呼び出す儀式をします。その方法は合わせ鏡によるものでした。
夫は悪魔を召喚し、捕まえることに成功します。
悪魔はしっぽこそはえていましたが、形は人間に似ていて、ネズミよりいくらか大きく、猫よりはいくらか小さいです。
「ひとつ、なにかやってみろ」と夫。
「だめです。なにもできません。逃して下さい」と悪魔。
夫はけとばしたりタバコを押しつけたりして悪魔をいじめる。
夫にはストレスがたまっていたし、キューキュー言いながら泣く悪魔はいじめがいがあった。
夫はハンマーで悪魔の頭を砕くこともあった。しかし、悪魔は翌日には復活するのだ。
いいストレスのはけ口を見つけた夫は仕事で成功を続け部長に昇進する。
その姿を見ていた妻は「ちょっと面白そうね。あたしにもやらせてよ」と、悪魔を針を刺したり、ハサミでしっぽを切り刻んだりした。
だんだんと悪魔へのいじめがエスカレートする夫婦だったが、共通のストレス発散のおかげか夫婦仲も良くなってきた。
このようにして、何ヶ月か経った夜。妻は寝る前に鏡台に向かい、髪にブラシをかけていた。悪魔はそのそばで、しっぽに結び目をつけられて痛がっていた。彼女はなにげなく、ブラシをかけ終わった髪を見ようとして、手鏡をとって頭のうしろにかざした。
その時。悪魔は突然、飛び上がって、手鏡の中に飛び込んだ。
悪魔は逃げてしまった。
悪魔を失い、暴力の行き先がなくなった夫婦はお互いにののしりあった。
そのうっぷんを晴らしてくれるものはなかったが、二人の身に深く染み込んだ習慣は消えてはいなかった。いつの間にか、夫の手には、ハンマーが、妻の手には、ハサミがあった。
ラストには静かになった部屋を描いています。「鏡」はとても有名な作品で50ある物語のうちのひとつにも関わらず、たくさんのレビューがありました。
レビューには悪魔とは己の心のことで、鏡とは自分を映し出す道具なのだ、という意見が多く見られましたが、僕はこれを実際にあり得る事件と捉えました。
何気ない一文ですが、星新一さんの妙技が炸裂している一文がありました。
ここです!
このようにして、何ヶ月か経った夜。
このようにしては悪魔へのいじめが常態化している頃です。
悪魔へのいじめが始まり《何ヶ月か経った夜》ならば、現実にも起きそうな気がする事件だと感じるのです。
(いじめをしている方やパートナーを冷たく扱ってしまう方、どうかお気を付けください。悪魔があなたの心を支配し、あなたを破滅に導くかもしれません。)
📗見どころ(その2)
表題作の「ボッコちゃん」は稀代の美女を扱う話です。
彼女に恋する青年(常連客)の歪んだ愛は周りを巻き込みます。
こちらは美女の扱いが見事です。ボッコちゃんは《完全な美人》と書かれているので、いつの時代も美人です。
本書は1971年に発行されましたが、《完全な美人》と書いておけば、永久に美人です。
読み手がt勝手に完全な美人を想像してしまうのです。
ちなみに僕だったら吉岡里帆さんを想像します(^_-)-☆
この書き方がお見事ですよね。ほれぼれしちゃいます。
人物の細かい描写がないからこそ何年たっても色あせない。永久に星新一作品は愛されることと思います。
📙最後に
僕は星新一作品を読むときは表題作から読みます。
その方が、本のコンセプトがより分かる気がするからです。
本は順番通りに読まなくてもいいことを覚えたのは星新一先生のおかげです。
本書は短い話が多いので、星新一作品が初めましての方には特におすすめです。
色々な出版社から星新一作品がでていますが、新潮文庫のがいいと思います。
細かくてすみません(;^_^A 僕は背(本のタイトル部分)や背表紙の美しさにこだわります。
ちなみに僕は新潮社のまわし者ではありません(笑)
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