ズッコケ中年三人組と栽培員裁判の教科書

小説

「ズッコケ中年三人組 age43」 那須正幹
文庫版副題:43歳のズッコケ事件探偵


📕本書との出会い

遂に僕が最もすごいと思ったミステリーの紹介です。
本書は年に数回しか推理しない僕を夢中にさせ、仕事中ずっとついて考えていたくらいにハマりました。
何度読んでも面白く、そういえばこの三人組は小学生の頃からたくさんの事件に巻き込まれていたなぁと昔のことも思い出しました。
ぜひ一度手に取ってみて欲しいです。と言っても本書を置いている書店はもうないかもしれませんが。

当時書店だった僕は本書が文庫化するにあたり、上司に直談判しました。
「この本を平積みしましょう!必ず売ります!!」
見事に却下されましたが(;^_^A 
これだけの熱量をもって売りたい本はこの本が一番です。
読書会に参加する際には必ず持っていきます。

本書を一言で表すと裁判員裁判の教科書です。
ハチベエが栽培員でハカセが解説役です。モーちゃんはボーっとしています。
三人組については語るととても長くなるので今回は本書の事件について書いていきます。
栽培員裁判は当事者になりきって読むことができてとても楽しいです。
皆さまも推理に参加して欲しいですがネタバレしすぎもよくないので裁判の結果や真相は書きません。


📘あらすじ

悲しいことですが、事件について多くを書きたいため、中年になった三人組の近況は飛ばします。
ハカセが先生になったり、ハチベエが市議になったり、モーちゃんの娘がいじめられていたりと数えきれないほど書きたいところなのですが、、、
そうそう、最近彼らはツチノコを捕まえましたヾ(≧▽≦)ノ
とにかく、今は飛ばします。

扱う事件は殺人です。
ハチベエの近所にある工務店の社長が逮捕され、栽培員裁判になります。
ハチベエは裁判官の面接を経て栽培員に選ばれるのでした。

事件の被害者は被告である社長の工務店の元従業員男性です。
元従業員はチャラくて社長の娘をしつこく誘うし、勤務態度は良くないのでクビになっていました。
元従業員は工務店を辞めてなお、娘にちょっかいを出していました。
そのことを知った社長はキレて元従業員を殴って殺害したというのが事件の大まかな概要です。

以下は裁判で提示された証拠についての箇条書きです。

・社長は一度取調べの際に自白しています。(裁判が始まり、殺人は否認しました)
・凶器は工務店にあったスパナです。スパナは被害者宅近くのゴミ箱に捨てられていました。
・スパナは工務店から被害者が盗んだもので社長の指紋がついています。
・推定犯行時刻前、被害者宅の前で社長の目撃情報があります。
 証言者はたばこ屋のおばあちゃんです。
・社長は事件の日に被害者宅を訪れて、被害者を拳で殴ったことは認めています。
 ただし、スパナでは殴っていないと訴えています。

事件はこんなところです。争点は誰がスパナ🔧で殴ったか、です。
普通に考えたら社長が犯人ですね(;^_^A

これらをハチベエや他の栽培員が話し合い、ハカセは制度について解説したり、ハチベエにアドバイスしたりしています。
しつこいようですが、モーちゃんはボーっとしています(笑)

段々と事件の概要が明らかになる様子は本格ミステリのようですが、とっても丁寧に事件や制度を書いている分、三人組の活躍は少なめでした。


📗見どころ(事件について)

本書の大半は裁判で占めています。
被害者の状況や加害について、本当の裁判と同じように進んでいきます。
栽培員裁判の選び方や、裁判員の選定の仕方についても詳細に記載されており、まるで栽培員裁判の教科書でした。

上に書いた証拠が出揃い、ついに判決が出ます。
本書のすごいところはこの後です。
事件は決着したかに思えたもののハカセの中ではモヤモヤが残ります。

普段は推理をしない僕も一度ページを閉じ、じっと考え続け、まとまった頃に読み進めました。
するとハカセと同じ結論に達することができました。(その時の嬉しさは言葉になりません)

この時点で残り8ページ、そのまま終わってもよかったものの、ハカセは推理したことを社長にぶつけます。
ハカセはたまに無茶な行動をするので、三人組の中で一番危険な男です。

しかし、社長の返した一言は衝撃的な言葉で、、、。

まさかズッコケシリーズで大どんでん返しを起こすようなミステリーと出会えるとは思っていなかった僕は熱が出たかのようで、しばらくはハカセと一緒に呆然としていました。


📗見どころ(文学性について)

どうしてもご紹介したい一文がありましたので、特別に欄を設けました。
著者の那須正幹先生はとても楽しみながら執筆しているように感じます。
たまに作者の感想が物語に差し込まれるのです。

ご紹介したい一文は好きな表現すぎてふせんが貼ってありました。
何度読み返してもうっとりしてしまいます。
冒頭の三人組の住む瀬戸内を表現した場面です。

瀬戸内の海は、どこまでも穏やかだ。いましも港を出港した四国通いの水中翼船が白波をけたてて沖に向かって走り出していく。その向こうには新緑鮮やかな小島が横たわっていた。海から吹く風は、すでに初夏のけはいをただよわせている。

と、ここで作者は爽やかな休日の午後という文章をそえようかと思ったのだが断念した。本来「爽やか」という言葉は、秋の季語であって、四月下旬の気候に用いるのは適切でないと考えたからだ。作家というのはこんなところまで神経を使っていることを、読者もよくよく承知しておいてほしい。

いかがだったでしょうか。ほれぼれしちゃいますね(*ノωノ)
良さが分からないよという方はコメントください。
電話で良さをお伝えいたしますのでヾ(≧▽≦)ノコワガラナイデ


📙最後に

著者は昔からそうなのですが、最期の数ページで物語を急に完結させます。
とてもスタイリッシュで僕が小学生の時からこのシリーズを愛する理由でした。
そして本書は残りの数ページで急転直下で結末にたどり着きます。

本当にお見事です。
(僕は心の底から感動した時「お見事」と言ってしまいます)

ズッコケ三人組を知らない方でも絶対に楽しめます。
もし楽しめない方がいましたら僕が電話して本書の魅力を伝えますヾ(≧▽≦)ノコワガラナイデ

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